用語

用語名 定義・説明
ABV ABV(Alcohol by Volume)は、ビールなどのアルコール飲料に含まれるアルコールの体積比率(%)を示す指標。たとえば、ABV 5% とは飲料の総量のうち5%がアルコールであることを意味する。アルコール度数として一般的に使われる表記で、ラベルにも明記される。
IBU IBU(International Bitterness Units)は、ビールの苦味の強さを示す国際的な単位。主にホップに由来するイソアルファ酸の濃度を数値化しており、1IBUは1リットル中に1ミリグラムのイソアルファ酸が含まれていることを意味する。数値が高いほど苦味が強く感じられるが、味のバランスや麦芽の甘みなどによって体感は異なる。
IPA ホップを大量に使用した、苦味が強く香り高いビアスタイル。インディア・ペール・エールの略。
のど越し のど越しとは、ビールを飲んだ際に喉を通る感覚や心地よさを表す日本独自の表現。炭酸の刺激、冷たさ、軽快な飲み口が一体となった体感的な印象を指し、「爽快感」や「スムーズさ」として評価されることが多い。味覚よりも触覚的な感覚に近く、特に日本のラガービール文化において重視されている。
ろ過 ろ過は、ビール醸造において酵母や沈殿物(トラブ)などの不溶性物質を除去し、液体を透明に仕上げる工程。プレートフィルターやケイソウ土フィルター、クロスフローフィルターなど様々な方法が用いられ、安定性や外観を向上させるために重要。クラフトビールでは、あえてろ過を行わず濁りを残すスタイルもある。加熱殺菌を伴わない「生ビール」の工程としても注目される。
アセトアルデヒド アセトアルデヒドは、ビールの発酵過程で酵母がエタノールを生成する際に中間生成物として現れる化学物質で、青りんごのような香りを持つ。発酵や熟成が十分に行われると通常は分解されるが、製造工程や保存状態によっては残留し、オフフレーバーの原因となることがある。また、人体においてはアルコールが分解される際にも生成される有害物質であり、吐き気、頭痛、動悸、呼吸促迫などの不快な症状を引き起こす。これはいわゆる「二日酔い」の主な原因とされている。体内にはアセトアルデヒドを分解する酵素(主にALDH)が存在するが、過剰な飲酒や個人の酵素活性の違いにより、処理が追いつかない場合がある。対策として、分解を助ける食品(例:しじみ、ウコン、緑茶など)を摂取することが効果的とされる。
アミラーゼ アミラーゼ(Amylase)は、でんぷん(多糖類)をマルトースやグルコースなどの糖に分解する酵素の総称で、ビール醸造においては糖化(マッシング)工程で極めて重要な役割を果たす。主に麦芽に自然に含まれており、温度帯に応じてα-アミラーゼ(主に粘性のあるデキストリンを生成)とβ-アミラーゼ(発酵しやすいマルトースを生成)の2種類が活性化する。これらの酵素の働きにより、酵母がアルコール発酵に利用可能な糖を得ることができるため、アミラーゼの活性はビールのアルコール度数やボディ、甘味に大きな影響を与える。糖化温度の管理は、目的とするビールスタイルに応じたアミラーゼ活性の最適化を意味する。
アロマ ビールの香り全般を指す用語で、特にホップや酵母由来の芳香に対して用いられる。柑橘系、ハーブ、フローラル、スパイシーなど多様な香りが存在し、ビールスタイルや使用原料により大きく異なる。通常、ビールを飲む前に鼻で感じる香りが「アロマ」に該当する。
アンモニア式冷凍機 アンモニア式冷凍機は、アンモニアを冷媒とした圧縮冷凍システムで、19世紀にカール・フォン・リンデによって実用化された。これにより、ビールの低温発酵やラガーの長期熟成が年間を通して可能となり、ラガービールの大量生産が世界中に広がる契機となった。現代の冷却技術の先駆けであり、食品保存や空調にも応用されている。
イソフムロン イソフムロンは、ホップに含まれるアルファ酸(主にフムロン)がビールの煮沸過程でイソメリ化されて生じる化合物で、ビールの苦味の主成分である。イソフムロンには抗菌作用もあり、ビールの保存性向上にも寄与する。苦味の強さや質はイソフムロンの種類や含有量、ホップの使い方によって左右される。ビールのIBU(International Bitterness Units)という苦味の単位は、このイソフムロンの濃度に基づいて測定される。
ウィリアム・コープランド ウィリアム・コープランド(William Copeland、1834–1902)は、ノルウェー生まれのアメリカ人醸造家で、日本におけるビール産業の草分け的存在。1869年、横浜の外国人居留地にて、日本初の本格的なビール醸造所「スプリング・バレー・ブルワリー(Spring Valley Brewery)」を設立。天然の湧水を活かしたビールづくりを行い、日本におけるビールの本格製造と普及の礎を築いた。彼の醸造所は後に麒麟麦酒(キリンビール)へと発展し、現在の日本の大手ビールメーカーの原点となっている。近年では、彼の名や醸造所の名を冠したブランド(例:Spring Valley Brewery)も登場しており、再評価が進んでいる。
エチルアルコール エチルアルコール(エタノール)は、ビールの発酵によって酵母が糖を分解することで生成されるアルコール成分で、飲用アルコールの主成分。分子式はC₂H₅OH。アルコール度数の指標となり、ビールの味わいや体感に大きく関与する。適量ではリラックス効果があるが、過剰摂取は健康に害を及ぼす。発酵中には他にも副生成物(アセトアルデヒドやフーゼルアルコールなど)が生じるが、エチルアルコールはその中心的な成分である。
エミール・クリスチャン・ハンセン エミール・クリスチャン・ハンセン(Emil Christian Hansen, 1842–1909)は、デンマークの生物学者・醸造学者で、酵母の純粋培養法を世界で初めて確立した人物。1883年、カールスバーグ研究所においてビール酵母の分離・培養に成功し、発酵品質の安定化に大きく貢献した。それ以前のビール醸造では、空気中や器具に存在する雑多な微生物が混入し、品質のばらつきや腐敗が頻発していたが、ハンセンの技術により特定の酵母株だけを用いた安定した醸造が可能になった。この技術は世界中の醸造所に波及し、近代的なビール生産の基盤となった。彼が純粋培養した酵母株は「カールスベルゲンシス酵母(Saccharomyces pastorianus)」と呼ばれ、現在でもラガービールの醸造に広く使用されている。
エンマーコムギ エンマーコムギ(Emmer小麦)は、古代から中東やヨーロッパで栽培されてきた古代穀物の一種で、現在のデュラム小麦や普通小麦の祖先にあたる。精白されにくい硬い殻を持ち、現代の小麦に比べて野性味のある素朴な風味と高い栄養価(特にタンパク質、食物繊維、ミネラル)を特徴とする。ビールの原料として使用される場合、濁りや穀物感、ナッツのような香ばしさを与えることがあり、特に古代麦ビールや実験的クラフトビールなどで使用されることがある。現代的な大量生産には向かないが、個性や伝統性を重視するスタイルにおいて見直されている。
エーベルスのパピルス文書 エーベルスのパピルス文書(Ebers Papyrus)は、紀元前16世紀の古代エジプトで書かれたとされる医学文書で、人類最古級の薬学・医療文献のひとつ。中にはビールに関する記述もあり、ビールが当時から薬用や栄養源として用いられていたことを示す貴重な証拠とされる。ビールの歴史的起源を探るうえで重要な史料。
エール エール(Ale)は、上面発酵酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を使い、高めの温度(15~25℃)で発酵させるスタイルのビールの総称。発酵が比較的早く進み、フルーティーで芳醇な香りや複雑な味わいが特徴。古代から中世ヨーロッパで広く親しまれたビールで、ラガーに比べてコクや香りが強い傾向がある。代表的なスタイルにはペールエール、IPA、スタウト、ポーター、ベルジャンエールなどがある。近年のクラフトビールブームでも中心的な存在であり、多様な個性を持つビールが数多く生まれている。
エールハウス エールハウス(Alehouse)は、もともとイギリスにおけるパブ文化の起源の一つで、エール(上面発酵ビール)を提供する小規模な飲食店・酒場のこと。中世には地元の家庭が自家製ビールを売る形で始まり、近代的なパブの原型となった。今日ではクラフトビールを専門に扱うバーや、伝統的エールを提供する店の名称としても用いられることがある。
オクトーバーフェスト オクトーバーフェストは、ドイツ・ミュンヘンで毎年9月中旬から10月初旬にかけて開催される世界最大級のビール祭り。1810年にバイエルン王国の皇太子ルートヴィヒと王女テレーゼの結婚を祝う市民の祭りとして始まり、以来毎年開催されている。会場では特別に醸造された「オクトーバーフェストビア」が提供され、1リットルジョッキで乾杯するのが伝統。ビールだけでなく、伝統衣装や料理、音楽なども楽しめる。
カールスバーグ社 カールスバーグ社(Carlsberg)は、1847年にデンマーク・コペンハーゲンでヤコブ・クリスチャン・ヤコブセンによって創業された世界有数のビールメーカーであり、近代ビール科学の発展に大きな影響を与えた企業。研究施設であるカールスバーグ研究所では、1883年にエミール・クリスチャン・ハンセンによって世界初の酵母純粋培養に成功し、工業的ビール醸造の安定性と品質向上に貢献した。使用された酵母株「サッカロマイセス・カールスベルゲンシス」はラガー酵母の代表的存在で、現在でも世界中で使用されている。また、科学者ニールス・ボーアに研究支援を行うなど、ビール製造を超えた科学・文化支援も行ってきた。ブランドとしては「カールスバーグ」や「ツボルグ」などがあり、世界各国に展開している。
カール・フォン・リンデ カール・フォン・リンデ(Carl von Linde, 1842–1934)は、ドイツの機械工学者・発明家で、1873年に世界初の実用的なアンモニア圧縮式冷凍機(冷蔵機)を開発し、ビール醸造における低温管理を可能にした。これにより、従来は寒冷な季節や地下室でしか造れなかったラガービールを、年間を通して安定的に醸造・貯蔵できるようになり、ラガースタイルの世界的普及を後押しした。彼の冷却システムはビール業界だけでなく、食品保存、医療、工業など広範な分野に応用され、現在の冷蔵技術の礎となっている。リンデは後に産業ガス企業「リンデ社(Linde AG)」を創設し、現代冷却技術のパイオニアとして知られている。
キレ キレとは、ビールを飲んだ際に感じる後味の切れの良さや、口の中に残る余韻の少なさを表す日本独自の表現。キレがあるビールは、後味がすっきりとしていて飲みやすく、喉越しが良いとされる。一方で、余韻やコクが強いタイプのビールは「キレが弱い」と表現されることもある。日本の大手ビールメーカーのラガー系ビールは、この「キレ」の良さを重視していることが多い。
クラフトビール クラフトビール(Craft Beer)は、一般に小規模で独立した醸造所が、伝統的手法や革新的アイデアを活かして製造する個性的なビールを指す。米国ブルワーズ・アソシエーションによれば、「小規模(Small)」「独立(Independent)」「伝統的(Traditional)」の3要素がクラフトビールの基準とされる。大量生産される商業的ビールとは対照的に、モルトやホップ、酵母、副原料の選定、製法、スタイルにこだわり、多様でユニークなフレーバーを生み出すことが特徴。1990年代以降、世界的にクラフトビールのムーブメントが広がり、日本でも「地ビール」から発展する形で注目を集め、地域性や造り手の個性が活かされた製品が多数登場している。
グルコース グルコースは、単糖類の一種で「ブドウ糖」とも呼ばれる。ビールの糖化工程でデンプンが分解されて生成される糖のひとつで、酵母がアルコール発酵に利用する。グルコースはマルトース(二糖)よりも速やかに酵母に吸収され、発酵初期に活発に消費される。甘味を持つが、ビールにおいては主に発酵の燃料源として機能する。
グルートビール グルートビール(Gruit Beer)は、ホップを使用せず、代わりに様々なハーブやスパイス(グルート)で香味付けされた伝統的なビールスタイル。中世ヨーロッパでは一般的で、セイボリー、ヤグルマギク、ヤロー(ノコギリソウ)、ジュニパーベリー、ローズマリーなど地域に根ざした植物が使われた。15世紀以降、ホップが防腐性や安定性で優位となり主流になったことで衰退したが、近年クラフトビールの多様化に伴い再評価され、実験的・歴史的スタイルとして復活している。苦味よりもハーバルで複雑な香りや味わいが特徴で、歴史や土地性を表現するビールとしても注目される。
グーズ グーズ(Gueuze)は、ベルギー・ブリュッセル周辺で造られる伝統的な自然発酵ビール「ランビック」の若いものと古いものをブレンドし、瓶内二次発酵させたスタイルのこと。酸味が強く、シャンパンのような泡立ちを持つ。野生酵母や乳酸菌による複雑で芳醇な香味が特徴で、長期熟成にも適する。サワービールの代表的存在として、クラフトビール界でも注目されている。
コク コクとは、ビールの味における奥行きや深み、まろやかさなど、単なる味の濃さを超えた複雑で重層的な味わいを表現する日本語の表現。甘味・苦味・酸味などのバランスや、舌に残る余韻の豊かさが関係している。麦芽の使用量や焙煎度、熟成度などによりコクが増す。しっかりしたボディのビールやダーク系のスタイルではコクが強調される傾向がある。
コク コクとは、ビールの風味の深さ・厚み・持続性を示す感覚的な評価指標であり、味覚・香り・舌触り・後味などの総合的印象から成る。明確な定義は存在しないが、麦芽の甘味やボディ感、アルコール度数、熟成度などが関係し、ビールの重厚さや飲みごたえを表す語として用いられることが多い。英語では「full-bodied」「rich」などと表現される。
ジャグ ジャグ(Jug)は、取っ手付きの注ぎ口のある容器で、主に液体を入れて注ぐために使われる。ビール文化においては、イギリスやオーストラリアなどでパブからビールを量り売りしてもらう容器として、また卓上で複数人に提供するピッチャー的用途として使われることがある。陶器やガラス、金属など素材もさまざま。現代では家庭用ドラフトビール機にも応用されている。
タップ タップ(Tap)とは、ビール樽(ケグ)からビールを注ぐために使用される蛇口状の装置や、注ぎ口のことを指す。バーやビアパブでは「ドラフトビールの提供口」も意味する。また「タップ数」は店舗で提供されるドラフトビールの種類数を表すことがあり、「10タップの店」といえば、10種類の樽生ビールを提供している店を指す。
テイスティング テイスティングとは、ビールの色・香り・味・口当たり・後味などを五感(視覚・嗅覚・味覚・触覚)を通じて評価する行為で、官能評価や品質管理、愛好家の記録などに用いられる。外観・アロマ・フレーバー・マウスフィール・バランスといった観点から分析する。専門的な場ではBJCP(ビア・ジャッジ認定プログラム)やCicerone(ビール資格制度)に基づいた形式で実施され、ビールのスタイルごとの適正や欠点の有無も確認される。家庭での楽しみとしても広がっており、クラフトビール文化の一環となっている。
ニンカシ ニンカシは、古代メソポタミアにおけるビールの女神で、紀元前18世紀ごろのシュメール文明においてビール醸造の守護神とされた存在。シュメール語の詩『ニンカシの賛歌』には、麦芽の浸漬から発酵までの醸造工程が描かれており、世界最古のビールレシピのひとつとされている。ニンカシは女性の醸造者とビール文化の象徴でもあり、現代のクラフトビールブランドにもその名を冠した例がある。
バーレイ バーレイ(Barley)は、ビール醸造の主要原料である大麦の英語名。麦芽(モルト)はバーレイを発芽・乾燥させて作られ、でんぷんや酵素を豊富に含むため糖化に適している。品種には二条大麦と六条大麦があり、前者がビール醸造に適しているとされる。収穫後の品質やたんぱく質含量、粒の大きさなども醸造において重要な要素となる。
ビアスタイル ビアスタイルとは、ビールの製法、原料、発酵方法、味、色、香り、度数などによって分類されるビールの種類のこと。ラガー、エール、スタウト、ヴァイツェン、IPAなど、多数のスタイルが存在し、BJCPやCiceroneなど国際的な分類基準も存在する。スタイルごとに理想的な提供温度やグラスも異なる。
ビオトープ ビオトープとは、生物が自然に近い状態で生息・共存できるように整えられた環境のこと。ビールとの関連では、ホップ畑やブルワリーが自然環境の保全や生物多様性の促進を意識してビオトープ的空間を作るケースもあり、近年のサステナブル醸造とも結びついている。
ビターエール ビターエールは、イギリス発祥の伝統的なエールスタイルで、バランスのとれた苦味とモルトの風味が特徴。ペールエールの一種でありながらアルコール度数は控えめ(3〜4.5%)で、日常的に飲まれるパブビールとして親しまれてきた。リアルエールとして提供されることも多い。
ビターホップ ビターホップは、主にビールに苦味を与える目的で使用されるホップ品種。アルファ酸含量が高く、煮沸時に投入されることでイソフムロンを生成し、安定した苦味を形成する。アロマホップと対照的に、香りよりも苦味の抽出に重きを置く。代表品種にはマグナム、コロンバス、チヌークなどがある。
ビットシカリ ビットシカリは、日本の二条大麦の品種のひとつで、主にビール醸造用の麦芽原料として栽培される。大粒でたんぱく質含量が安定しており、糖化効率や麦汁の透明度にも優れる。国産麦芽使用をうたうクラフトブルワリーや大手ビール会社でも使用されている。品質の安定性と醸造適性の高さから、日本の主要ホップ産地と連携した地域ブランド化も進んでいる。
ビヤマグ ビヤマグ(Beer Mug)は、ビールを注ぐための取っ手付きの大型グラスで、陶器やガラス製のものが一般的。ドイツやチェコなどのビール文化圏では伝統的な器として親しまれており、大容量かつ丈夫で、泡持ちや香りの保持にも優れる。マグカップ型のデザインはコレクターズアイテムとしても人気。
ビールカクテル ビールカクテルは、ビールをベースに果汁、リキュール、スピリッツ、ジュース、シロップなどを加えてアレンジした飲料。シャンディガフ(ビール+ジンジャーエール)、レッドアイ(ビール+トマトジュース)、カシスビアなどが有名。味のバリエーションが豊かで、ビールの苦味が苦手な人にも親しまれている。
ビール純粋令 ビール純粋令(Reinheitsgebot)は、1516年にドイツ・バイエルン公国で制定されたビールの原料規制法で、「水、麦芽、ホップ(後に酵母も追加)」のみを使用することを義務づけた。当時の品質管理・食の安全の観点から重要な役割を果たし、現在でもドイツの伝統やクラフトビールの精神に影響を与えている。
フランダース・エール フランダース・エールは、ベルギーのフランダース地方で造られる伝統的なサワーエールで、乳酸菌による酸味と長期熟成による複雑な風味が特徴。赤褐色の「フランダース・レッドエール」と濃褐色の「フランダース・ブラウン」に大別される。オーク樽で数ヶ月から数年熟成され、ワインのような酸味やタンニン感が楽しめる。
フルーツビール フルーツビールは、ビールの発酵過程や熟成段階で果物や果汁を加えて造られるスタイルで、香りや色、酸味や甘味などが果実由来の個性として表現される。チェリー、オレンジ、ゆず、ベリー類など使用される果物は多様で、見た目や香りの華やかさから女性や初心者にも人気がある。ベルギーのクリークやピーチランビックなども有名。
フルート型グラス フルート型グラスは、シャンパングラスのように細長く口がすぼまった形状を持つビールグラスで、泡持ちがよく、炭酸をしっかりと保ちやすい。ベルギーのランビックやセゾン、またフルーツビールや発泡感の強いスタイルに適している。見た目にも上品で、香りや色を楽しむプレミアムな演出に用いられることが多い。
フレーバー ビールの味と香りを合わせた「風味」全体を指す用語。麦芽やホップ、酵母、水、発酵や熟成工程など、あらゆる要素がフレーバーに影響を与える。甘味、苦味、酸味、渋味、旨味などの味覚だけでなく、香りとのバランスも含まれる。アロマとの違いは、口に含んだ後に感じる風味である点。
フレーバー フレーバーとは、味覚と嗅覚を総合した「風味」を指し、ビールではモルトの甘味、ホップの苦味・香り、酵母由来のエステル、酸味、スパイス感など多様な要素が組み合わさる。テイスティングや官能評価の中心となる概念であり、スタイルごとに理想的なフレーバープロファイルが存在する。
ブラインド・テイスティング ブラインド・テイスティングは、ビールの銘柄やラベルなどの事前情報を隠した状態で行う評価方法で、先入観を排して純粋に味や香りなどの官能に基づいて判断することが目的。審査会やコンテスト、学習目的の比較テイスティングなどで多く用いられる。プロ・アマ問わず、テイスターの感覚を養う訓練としても有効。
ブラウンエール ブラウンエールは、茶褐色の外観とモルト由来の香ばしい甘味が特徴のエールスタイル。イギリスのニューカッスルを代表とするイングリッシュブラウンエールと、アメリカのホップが効いたアメリカンブラウンエールに大別される。ナッツ、キャラメル、チョコレートを思わせる風味が多く、苦味は控えめな傾向にある。
ブルワリー ブルワリー(Brewery)は、ビールを製造する醸造所のこと。大規模な工場型から、小規模で個性あるクラフトブルワリーまで多様な形態が存在する。近年は見学や併設のタップルームなどを備えた体験型施設も増えており、観光や地域活性の拠点としても機能することがある。
ヘーフェヴァイツェン ヘーフェヴァイツェンは、ドイツのバイエルン地方発祥の小麦を主原料とした上面発酵ビール「ヴァイツェン」の一種で、「ヘーフェ」は酵母、「ヴァイツェン」は小麦を意味する。酵母由来のバナナやクローブのようなフルーティーでスパイシーな香りが特徴で、濁りのある外観と滑らかな口当たりを持つ。無濾過のため酵母が残っており、栄養価も高いとされる。
ペアリング ペアリングとは、ビールと料理の相性を考えながら組み合わせて楽しむ食文化のひとつで、味や香り、食感、温度などの要素を基にマリアージュ(調和)を図る。例として、IPAとスパイシー料理、スタウトとチョコレートスイーツ、ヴァイツェンとソーセージなどがある。近年はビール専門のペアリングイベントやレストランも増加しており、クラフトビール文化の広がりとともに注目されている。
ペールエール ペールエールは、イギリス発祥の上面発酵ビールで、琥珀色の外観とホップの爽やかな苦味、モルトのバランスが特徴。代表的なエールスタイルのひとつであり、特にアメリカでは進化した「アメリカンペールエール(APA)」がクラフトビールの中心的存在となっている。飲みやすく多様な食事と合わせやすいため、世界中で人気の高いスタイル。
ホットビール ホットビールは、ビールを加熱し、スパイスや果物、砂糖などを加えて温かくして飲むスタイル。特にドイツやベルギーでは冬季の伝統的な飲み方として親しまれており、風邪予防や体を温める目的でも飲まれる。ヴァイツェンやボックを使い、シナモン、クローブ、はちみつなどを加えるレシピが一般的。
ホップ ホップは、アサ科の多年草であるホップ植物の雌花から採取されるビールの主要原料のひとつで、ビールに独特の苦味・香り・防腐効果を与える。アルファ酸が苦味の源で、β酸や精油がアロマを構成する。ビターホップとアロマホップに大別され、近年は個性豊かな新品種(シトラ、モザイクなど)が次々と開発されている。
ホワイトエール ホワイトエールは、小麦を主原料とした淡色の上面発酵ビールで、ベルギーの伝統的スタイル「ベルジャンホワイト」に代表される。オレンジピールやコリアンダーなどのスパイスが使用され、軽やかでスパイシー、かつフルーティーな風味が特徴。濁りのある外観と柔らかな口当たりで、夏場にも人気。
ボック ボックは、ドイツ発祥の下面発酵ビールで、アルコール度数が高く、モルトの甘味とコクが特徴のラガースタイル。冬から春にかけての季節ビールとして親しまれ、ダブルボック(ドッペルボック)、アイスボック、マイボックなどのバリエーションがある。熟成期間も長く、濃色で芳醇な味わい。
ボディ ボディとは、ビールを飲んだときに感じる「重さ」や「厚み」、「口当たり」のことを指す。一般的にライトボディ(軽い)、ミディアムボディ(中程度)、フルボディ(重い)などと表現され、麦芽の使用量や糖度、アルコール度数、発酵度などにより変化する。ボディは飲みごたえや満足感を左右する重要な要素。
ポーター ポーターは、18世紀のロンドンで誕生した黒ビールの一種で、ローストモルト由来の香ばしい風味と滑らかな口当たりが特徴。名前は荷運び労働者(ポーター)が好んで飲んだことに由来する。スタウトとは起源を同じくするが、スタウトの方がより重厚。チョコレートやコーヒーのような香りが感じられ、寒い季節に人気が高い。
メラノイジン メラノイジンは、糖とアミノ酸が加熱によって反応するメイラード反応によって生成される褐色の高分子化合物で、ビールの色や香ばしい風味、ボディ感、熟成感に寄与する。特に高温で焙燥されたモルト(カラメルモルト、ミュンヘナーモルトなど)に多く含まれ、ポーターやボックなど濃色ビールに豊富。抗酸化作用があるとも言われている。
モルト 発芽させた麦芽のこと。ビールの甘味やコクの元となる重要な原料。
モルト モルトとは、発芽させた大麦(麦芽)のことで、ビールの主原料のひとつ。でんぷんを酵素によって糖に変える糖化力と、味わい・色・香りを生む役割を担う。モルトの種類には、ピルスナーモルト、ミュンヘナーモルト、カラメルモルト、ローストモルトなどがあり、使い分けによってビールのスタイルや個性が大きく変化する。英語では「Malt」と表記され、ビールにおける「ボディ感」や「甘味」の主因でもある。
ヤチヤナギ ヤチヤナギは、北海道や東北の高原や湿原に自生する常緑低木で、和製ハーブの一種。葉や枝に爽やかな芳香成分を含み、アイヌ民族が薬草や香料として利用してきた歴史を持つ。ビール醸造では、ホップの代替あるいは補助的な副原料として使用され、森林的な香りとやわらかな苦味を加える。特に北海道のクラフトブルワリーで地域性を活かした原料として注目されている。
ライトビール ライトビールは、通常のビールよりもアルコール度数やカロリー、炭水化物量が抑えられた軽やかなビールスタイル。アメリカを中心に1970年代以降健康志向や飲みやすさを求める需要から広まり、淡い色合い、控えめな苦味、ドライな後味が特徴。ミラーライトやバドライトなどが代表例で、大手量産ビールによく見られる。
ラガー ラガー(Lager)は、下面発酵酵母(サッカロマイセス・パストリアヌス)を使用し、低温(7〜15℃程度)でゆっくりと発酵・熟成させるビールスタイル。発酵後も冷温で熟成(ラガリング)されるため、雑味が少なくクリアですっきりとした味わいが特徴。世界で最も流通量が多いビールスタイルであり、日本の大手メーカー(アサヒ、キリン、サッポロなど)が製造する「ピルスナー」もラガーに含まれる。苦味や香りは控えめで、のどごしの良さが好まれる。
ラガー ラガーは、下面発酵酵母を使用し低温でゆっくりと発酵・熟成されるビールスタイルの総称で、すっきりとした味わいとクリアな外観が特徴。代表的なピルスナーやヘレス、ボックなどが含まれ、世界で最も広く消費されるスタイル群。語源はドイツ語の「貯蔵(Lager)」に由来し、冷蔵技術の発展とともに発展した。
ランビック ランビックは、ベルギー・ブリュッセル周辺で造られる伝統的な自然発酵ビールで、空気中の野生酵母や乳酸菌によって長期間発酵・熟成される。酸味が強く、ドライで独特のフレーバーが特徴。果物を加えた派生スタイル(クリーク=さくらんぼ、フランボワーズ=ラズベリー)も多い。ブレタノマイセス菌など複数の微生物による複雑な発酵が味の鍵を握る。
レッドエール レッドエールは、赤褐色から琥珀色の美しい色合いと、モルト由来のキャラメルやトーストのような香ばしい甘味が特徴のエールスタイル。アイルランドの伝統的な「アイリッシュレッドエール」と、ホップの香りが強調された「アメリカンレッドエール」が代表的で、苦味は控えめから中程度。食事との相性もよく、バランスの良い味わいで人気が高い。
ローストバーレイ ローストバーレイは、発芽させていない大麦(バーレイ)を高温で焙煎したもので、黒ビールやスタウトに使用される主要な焙煎原料。強いロースト香、コーヒーや焦げたトーストのような風味、深い黒色をビールに与える。モルトとは異なり糖化酵素を持たず、主に香味と色付けのために使用される。口当たりにドライ感を加える効果もある。
一度注ぎ 一度注ぎは、グラスにビールを一度の動作で注ぎ切るスタイルのこと。泡と液体のバランスを短時間で整える技術が求められる。勢いよく注ぐことで泡を立て、その後注ぎ足さずにビールと泡が理想的な比率(おおよそ7:3)になるよう調整する。泡の層が厚く、酸化を防ぐ蓋として機能しやすいが、注ぎ方によっては炭酸が抜けやすくなるため、繊細なコントロールが必要。日本の居酒屋やビアホールなどで一般的な注ぎ方のひとつで、シンプルながら奥が深い注ぎ技法である。
一番搾り麦汁 一番搾り麦汁とは、糖化(マッシング)工程を経た麦芽から最初に搾り出される麦汁のこと。麦芽とお湯を混ぜて酵素反応を促した後、濾過(ロイター)工程で麦芽かす(グリスト)から自然に流れ出てくる麦汁が「一番搾り」と呼ばれる。最も糖分が高く、雑味が少ない高品質な麦汁で、ビールのコクや風味に大きく寄与する。これに対して、お湯を加えてさらに搾り出される麦汁は「二番搾り」と呼ばれる。ドイツのビール純粋令や日本の一部プレミアムビール(例:キリン一番搾り)では、この一番搾り麦汁のみを使用して醸造されることがあり、原料と製法のこだわりを表すポイントとなっている。
三度注ぎ 三度注ぎは、日本のビール文化における注ぎ方の一つで、グラスに3回に分けてビールを注ぎ、理想的な泡と液体の比率(7:3)を作る手法。泡を立てて落ち着かせながら注ぎ足すことで、きめ細かく長持ちする泡が生まれ、酸化防止と口当たりの向上が期待される。居酒屋や飲食店では熟練の注ぎ技として知られ、演出としても人気がある。
上面発酵 上面発酵は、酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)が発酵タンクの上層に浮かびながら活動するタイプの発酵方法で、エールビールに使われる。発酵温度は15〜25℃と比較的高く、フルーティーで複雑な香りを持つビールが生まれやすい。下面発酵に比べて発酵期間が短く、クラフトビールや伝統的なスタイルに多く見られる。
二条大麦 二条大麦は、ビール醸造に最も適した大麦の一種で、穂に二列(2条)の実を付けることからこの名がある。穀粒が大きく均一で、タンパク質含量が低く、デンプンが豊富なため、糖化効率や麦汁の透明度に優れる。日本やドイツ、アメリカなど多くのビール産地で主流の原料であり、製麦(モルティング)に適した品種として栽培されている。これに対して飼料や食品用には六条大麦が多く用いられる。
二番搾り麦汁 二番搾り麦汁は、糖化後の麦芽かすに再度お湯を加えて抽出した、最初の一番搾り麦汁に続く2回目の麦汁を指す。糖分は一番搾りよりも低く、雑味やタンニンが抽出されやすいため、バランスやコスト重視のビールで使われることが多い。一部のプレミアムビールでは、あえて「一番搾り麦汁のみを使用」として差別化を図っている。二番搾りを含めるか否かは、レシピやスタイルにより異なる。
低温殺菌法 低温殺菌法は、一定の低温(通常60〜70℃)で加熱し、食品中の微生物を死滅させる方法で、ビールや牛乳などの保存性を高めるために利用される。ビールでは瓶詰めや缶詰後に行われ、酵母や雑菌の働きを止めて品質を安定させる目的がある。英語ではパストリゼーション(Pasteurization)とも呼ばれ、ルイ・パスツールによって体系化された。
修道院ビール 修道院ビール(Abbey Beer)は、修道院で醸造される、あるいは修道院の伝統やレシピに基づいて造られるビールの総称。特にベルギーに多く、トラピストビールがその代表。修道士たちは自給自足や慈善活動の一環としてビールを造っており、今でも宗教的理念を持った生産が続いている。味わいはフルボディでアルコール度数が高め、スパイシーで芳醇な香りが特徴。
副原料 副原料とは、ビールの主原料(麦芽、ホップ、水、酵母)以外に使用される原材料の総称で、トウモロコシ、米、糖類、果物、スパイス、ハーブなど多種多様。発泡酒やクラフトビールにおいて個性を出すためによく用いられ、香味や色、飲み口に変化を加えることができる。一方で、過度な使用はビール純粋令の精神と相容れない場合もある。
基本味 基本味とは、人間の舌が味蕾によって感じ取れる代表的な5つの味覚要素のことで、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味に分類される。ビールにおいては主に「苦味(ホップ由来)」「甘味(麦芽由来)」「酸味(乳酸菌や副発酵)」が重要視され、これらのバランスによって風味の印象が大きく変化する。近年では「うま味」や微弱な「塩味」が味の奥行きや飲みごたえに関与しているとされ、クラフトビールの設計にも活用されている。基本味の理解は、テイスティングやレシピ開発、官能評価の基礎となる概念である。
外観 外観は、ビールのテイスティングや評価において、飲む前に目で確認される視覚的な特徴の総称であり、「色合い」「透明度(濁り)」「泡の状態(量・キメ・持続性)」などが含まれる。ビールのスタイルや製法、原料によって大きく異なり、例えばピルスナーは淡黄金色でクリア、スタウトは黒くて不透明、ヘフェヴァイツェンは濁りがあるなど、外観からそのビールの個性や期待される風味をある程度判断できる。また、泡のきめ細かさや持続時間は、品質やグラスの洗浄状態にも影響されるため、評価項目としても重要視されている。
川本幸民 川本幸民(かわもと こうみん、1810–1871)は、幕末期の蘭学者・化学者で、日本で初めてビールを試験的に醸造した人物として知られる。長崎で蘭学や西洋の化学を学び、後に江戸で洋学教育に携わった。1860年代初頭に自身の著書『化学新書』にて、麦芽とホップを用いたビールの醸造法を紹介しており、これが現存する日本初のビール醸造記録とされている。幸民の研究は科学教育や医療、技術の近代化にも大きな影響を与えた。近年では、彼の功績を称えて「日本のビールの父」と呼ばれることもある。
日光臭 日光臭とは、ビールが日光や蛍光灯の紫外線にさらされた際に発生する不快な臭いで、スカンク臭(skunky smell)とも呼ばれる。ホップ中のイソフムロンが光に反応し、硫黄系の揮発性化合物(3-メチル-2-ブテン-1-チオール)を生成することで起きる。特に透明や緑色の瓶は遮光性が低く、日光臭のリスクが高まる。これを防ぐためには遮光瓶の使用や缶詰、冷暗所での保存が重要。
木片・木樽熟成ビール 木片・木樽熟成ビールとは、オーク樽や木片(チップ、スティックなど)を使用して熟成させたビールで、木の持つバニラ香、ウッディーさ、タンニン感などが加わり、複雑で深みのある風味を生み出す。ワイン樽やウイスキー樽などを再利用することで、前に使われていた酒の風味もビールに移り、独自のキャラクターが生まれる。特にバレルエイジドビールとして人気があり、限定醸造や高級ビールとして流通することも多い。
未熟臭 未熟臭とは、ビールの発酵や熟成が不十分な際に感じられる不快な香りで、青臭さや硫黄系、金属系など様々な要素を含む。アセトアルデヒドやジメチルサルファイド(DMS)、硫化水素などが原因物質となることが多い。新鮮すぎるビールや熟成不足のビールに現れやすく、一般的には欠陥香とされるが、スタイルや個人の嗜好により評価が分かれる場合もある。
浸漬 浸漬は、製麦工程における最初のステップで、乾燥した大麦などの穀物を水に漬けて吸水させ、発芽を促す処理。浸漬時間や水温、酸素供給の管理によって、麦の発芽率や品質が大きく変わる。均一な発芽を得るために非常に重要な前処理であり、製麦全体の成否を左右する。
焙燥 焙燥は、製麦工程において発芽した大麦(緑麦芽)を加熱・乾燥させる工程で、酵素活性を保持しつつ水分を飛ばし、保存性と香味を高める役割を担う。焙燥温度や時間により、麦芽の色や香ばしさ、糖化能力が大きく変化するため、ピルスナー用からローストモルトまで幅広いモルトが生まれる。英語ではキルニング(kilning)と呼ばれる。
熟成 熟成は、ビールの発酵後に行われる工程で、風味をまろやかにし、炭酸ガスを安定させるために一定期間冷却・保存すること。ラガービールでは「ラガリング」と呼ばれる低温熟成が行われる一方で、エール系でもタンクや樽での熟成が品質に大きく影響する。熟成期間や温度によってビールの仕上がりが左右される。
王冠 王冠は、瓶ビールなどの口部を密閉するために使われる金属製のキャップで、外周にギザギザの付いた特徴的な形状を持つ。正式には「クラウンキャップ(Crown Cap)」と呼ばれ、炭酸ガスを逃さず、外気の侵入を防ぐことで、ビールの品質と鮮度を保つ役割を果たす。1892年、アメリカのウィリアム・Painter(ペインター)によって発明され、20世紀に入り世界中に普及。現在では多くの瓶入り炭酸飲料で使われており、専用の栓抜きで開ける必要がある。ビールブランドのロゴやデザインが施された王冠は、コレクションアイテムとしても人気がある。
生ビール 生ビールとは、加熱処理(パストリゼーション)をしていないビールのことを指す。瓶や缶で販売されるビールにも使われるが、日本では特に樽詰・ドラフトで提供されるビールの通称として用いられる。冷蔵・衛生管理が必要だが、フレッシュな風味が味わえるのが特徴。現代では多くの市販ビールも無加熱処理のため、ほとんどが「生ビール」に該当する。
硬水 硬水とは、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を多く含む水のことで、ビール醸造においては発酵の活性、酵母の健全性、味わいに影響を与える重要な要素の一つ。硬水は麦芽の酸性を中和し、よりクリスプでドライな味わいを引き出す傾向があり、特にペールエールやIPAなどのホップが効いたスタイルに適している。イギリスのバートン・オン・トレントのように、硬水を活かした地域では「バートナイゼーション(硬水模倣)」という技術も発展した。一方で、繊細なビールやダークビールでは軟水の方が向いている場合もある。水質はビールレシピ設計において非常に重要な変数である。
糖化 糖化は、麦芽に含まれるデンプンを酵素の働きで糖に分解する工程で、ビール醸造における最重要プロセスの一つ。マッシング(mashing)とも呼ばれ、特定の温度帯(通常60~70℃)を保ちながら、水と麦芽を混ぜることでアミラーゼ酵素が活性化し、発酵可能な糖(マルトースなど)が生成される。糖化の結果得られた麦汁は発酵工程へ送られ、酵母によってアルコールと炭酸に変換される。
自然発酵 自然発酵とは、人工的に酵母を添加するのではなく、空気中や原料に存在する野生酵母や乳酸菌を利用して行う発酵方法で、ランビックや一部の農家製ビールなどに用いられる伝統的な技法。環境に依存するため、安定性に欠けるが、複雑でユニークな香味を生み出すことができる。ベルギーのブリュッセル周辺では、自然発酵を前提とした醸造が文化的遺産として継承されている。
若ビール 若ビールとは、発酵や熟成が十分に進んでいない段階のビールを指し、香味が粗く不安定な状態にある。アセトアルデヒドによる青りんご臭、炭酸ガスの荒さ、アルコールの角立ちなどが感じられ、製品としての完成度が低い。タンク熟成が進むことでこれらの要素はまろやかになり、飲み頃に達する。製造現場では熟成管理の指標として重要視される。
蒸留酒 蒸留酒は、発酵によって得られたアルコール液を加熱・蒸留することでアルコール濃度を高めた酒類で、ウイスキー、ウォッカ、ジンなどが代表例。これに対してビールは蒸留を行わない「醸造酒」に分類される。蒸留酒は保存性が高く、香味成分の構成も異なるため、ビールとの違いを理解するうえで基本的な用語となる。
製麦 製麦は、ビール醸造に使用する麦芽を作る工程で、大麦などの穀物を発芽・乾燥させることで、糖化酵素を生成し、麦の内部構造を糖化しやすく変化させる目的がある。主な工程は浸漬・発芽・焙燥(乾燥)で構成され、得られた麦芽の種類(ピルスナー、カラメル、ローストなど)は、ビールの色や香ばしさに直接影響を与える。
軟水 軟水は、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル含有量が少ない水のことで、硬度が低く、柔らかな口当たりを持つ。ビール醸造においては繊細な味わいや麦芽の甘味を引き立てる効果があり、特にミュンヘンのデュンケルやチェコのピルスナーなどに適している。日本の水は多くが軟水であるため、国内のビールは軟水向けスタイルに向いている。
遠野ホップ農業協同組合 遠野ホップ農業協同組合は、岩手県遠野市を拠点とするホップ栽培農家による協同組合で、日本のホップ産地として知られる遠野地域の中核的存在。大手ビールメーカーへの原料供給や、地域ブランド「IBUKIホップ」の推進、クラフトビールとの連携などを通じて、日本のホップ文化の発展と農業振興に貢献している。ホップツーリズムや地ビールイベントなど地域活性化にも積極的。
酵母の純粋培養法 酵母の純粋培養法とは、特定の酵母株のみを無菌的に分離・培養する技術で、1883年にデンマークのエミール・クリスチャン・ハンセンがカールスバーグ研究所で初めて実用化した。これにより、安定した発酵と一貫したビール品質の確保が可能となり、現代ビール醸造の基盤技術となった。それまでの発酵は空気中の雑菌や野生酵母による自然発酵が一般的で、失敗のリスクが高かった。
醸造酒 醸造酒は、糖を酵母によってアルコール発酵させて造る酒類の総称で、蒸留を伴わない酒を指す。ビール、日本酒、ワインなどが含まれる。これに対し、蒸留酒(ウイスキー、焼酎など)は発酵後に蒸留してアルコール度数を高めた酒である。醸造酒は原料や発酵技術により風味や香りに個性が出やすく、地域や文化によって多様なスタイルが発展している。
野生酵母 野生酵母とは、自然界に存在する制御されていない酵母のことで、空気中・果実・木の表面・樽などに棲みついている。ビール醸造ではランビックやファームハウスエールなど自然発酵スタイルで利用され、複雑で野趣ある酸味や香りを生み出す。代表的な菌種にブレタノマイセス(Brettanomyces)、ペディオコッカス、ラクトバチルスなどがあり、衛生管理や再現性に注意が必要。
麦汁 麦汁は、糖化工程で麦芽から抽出された糖分を含む液体で、ビール発酵の基となる原液。麦汁にはマルトースやグルコースなどの糖分が含まれ、これを酵母がアルコールと炭酸に変える。麦汁の濃度や性質はビールの味・香り・アルコール度数を大きく左右する。通常、濾過→煮沸→冷却を経て発酵タンクに移される。
麦汁冷却 麦汁冷却は、煮沸後の高温状態の麦汁を短時間で発酵に適した温度(エールで15〜25℃、ラガーで7〜15℃)まで冷却する工程。酵母が死滅しないようにするだけでなく、雑菌の混入や酸化を防ぐために迅速かつ衛生的に行う必要がある。冷却装置にはプレート式熱交換器などが使われる。冷却後の麦汁は発酵タンクへと移される。
麦汁煮沸 麦汁煮沸は、糖化後に得られた麦汁を加熱する工程で、ホップの投入、酵素の失活、殺菌、香味成分の生成(メイラード反応など)を目的とする。煮沸時間(通常60〜90分)やホップの投入タイミングにより、苦味・香り・泡持ち・色などが調整される。現代のビール製造においては、工程の中でもっとも制御が多彩で創造的な部分とされる。
麦芽 麦芽は、ビールの主要原料である大麦などの穀物を人工的に発芽・乾燥(製麦)させたもので、糖化酵素とでんぷんを豊富に含む。ビールの色・香り・味わいに大きく影響し、ピルスナーモルトやカラメルモルト、ローストモルトなど様々な種類が存在する。糖化工程で麦芽が水と酵素により糖に分解され、発酵の基となる麦汁が得られる。
麦踏み 麦踏みとは、秋まきの大麦や小麦の栽培初期に行われる農作業で、芽吹いた麦の茎葉を軽く踏みつけて倒し、分けつ(枝分かれ)を促すとともに、根張りを強くし、耐寒性や倒伏防止、収量増加につなげる効果がある。古くから日本の麦作で行われており、ビール用麦芽の原料として用いられる二条大麦の品質にも関係する。